メキシコボランティア診療旅行記パート2

Dr.吉沢のメキシコボランティア診療旅行記パート2

“サンブラスクリニック

(牛のひき肉?)“

 4回目の診療から私もドクターKと共にサンブラスにあるクリニックでの治療をする事になりました。いつものように金曜の夜は、我が心のふるさと“アラモス”に宿を取り、次の日の朝サンブラスのクリニックに向かいます。サンブラスクリニックまではアラモスから約20分の飛行時間ですが、実はこのサンブラスの飛行場が曲者です。飛行場には滑走路以外に何もなく、その滑走路は現地のボランティアが草を刈って地ならしをしただけのむき出しで、上空から見ると「く」の字に曲がっており全体的に北側に向かって上り坂になっています。しかも滑走路のすぐ手前には高圧電線が渡っていて、着陸そして離陸時に大きな障害となっています。過去にサンブラスクリニックの責任者であるジャッキー(アメリカ人の引退した看護婦)と、たくさんの医療機器を乗せたセスナが、離陸時にひっかかりそうになってクラッシュした事があるそうです。幸運にも全員無事だったようですが、それ以来ジャッキーは二度とこの滑走路を見たくない!!と、10年以上も最寄(といっても近くはありませんが)の国際空港までLAから旅客機で飛び、そこからバスの乗り継ぎで通っているようです。


さて飛行経験30年にも及ぶ我らがドクターK、突然クリニックの上空で急降下してエンジン音を鳴り響かせます。そしてその直後急上昇ののち反転。飛行場まで車で迎えにこいという「合図」を送るとその後旋回し、この難易度の高い曲がった滑走路にいとも簡単に見事な着陸を見せてくれました。ところがその直後、150メートルほど先の滑走路脇の茂みからなにやら大きな牛が3頭、悠然と滑走路を横切っていきます。そしてそうちの一頭が滑走路に生えた雑草を食べ始めたではありませんか・・・・・「今日の昼飯は牛のひき肉かな?」などとのんきな事を言うドクターKをゆっくりと見つめる牛。確かにこちらを見た目と私の目が会ったはず、それでも気にせず牛は草を食べ続けています。次第にあせるドクターKを尻目に一向に動く気配を見せない牛。「これはいかん!!」とばかり、必死に飛行機を止めようとあせるドクターK、滑走路を一度はずれながらもなんとか無事に飛行機を止めることができました。牛にぶつかればもちろんのこと、プロペラが石にあたっただけでも飛行機へのダメージは計り知れず、プロペラ交換が必要になる可能性もあるのです。なんとも、ここではうそのような事が本当に、しかも日常的に起こるようです。とんでもないところに来てしまった!と心の中でつぶやきながら牛はどこにいったかと振り返ると、こっちを見てにやりと笑った・・・ような気がしました。

 

さて着陸後クリニックまでは5分間のドライブですが、この時私達を運んでくれたのは何と救急車でした。しかも運転手は17歳と18歳のかわいい女の子達。私を含めドクターKも顔がだら~んと緩みきっています。医療用具は何も入っていない救急車に座り、がたぼこ道を土煙の中5分ほど走ると、クリニックの周りに大勢の人だかりがあります。並んで待っている人たちのためにタコススタンドもあり、なんだかいい匂いがたちこめています。

この日は1日で何と400人ほどクリニックに患者さんが来たと聞きました。中には乳がんの治療が受けられず腐敗した患部の悪臭がひどく家で隔離されていたという末期がんの老婆の患者さんもいます。またひどい腹部のヘルニアで、走ると内臓が出てしまうから走りたくないという女の子もいました。でも今まで治療が受けられずひどい状態であってもなんとかこうやってクリニックに来て治療が受けられるだけまだいいほうなのだそうです。ここにすらこられずに苦しんでいる人のほうが多いのですから。我々はなんと恵まれているんだろうといまさらながらに思います。我々の今の生活が当たり前のように思ってはいけないですね。


さて午前中の診療が終わり楽しみにしていたこの日の昼飯は、現地のメキシコ人ボランティアの人達が作ってくれた、手づくりのトルティアに、魚のツミレのはいったトマトベースのスープでした。このスープにはサボテンの角切りとなにやら白身らしい?魚で作ったツミレが入っています。トマトベースなのですが私の味覚にぴったりの味付けで、なんだか懐かしい気持ちになる程にとても美味でした。トルティアは今までごちゃごちゃいろんなものが置いてあったテーブルを“ちゃっちゃっ”とかたずけて、その上に粉をまぶしてベーキングパウダーと塩をごちゃっと入れた小麦粉を練ったものを上手に平らにのばしてフライパンで焼きます。テーブルの上の埃もいい具合に調味料の代わりになるのか、出来上がったトルティアは香ばしく、思わずボヘミアビール!と頼んでしまいそうになりました。


実に美味しい昼ごはんを食べた後、午後には交通事故で首から下が麻痺した若い男性を治療しました。車椅子からの移動や、治療台での彼がとれる姿勢を考えると一番都合が良かったのが婦人科用の診療台で、初めて全身麻痺の患者さんを婦人科用の治療台で矯正しました。アメリカではちょっと考えられない状況なのですが、メキシコ(のこのクリニック)では、そのときの状況下で出来ることをしていくしかない場合が多いのです。治療を終えたのが土曜午後4時、この日は30人程治療をしました。3時を過ぎると、スタッフメンバーが次から次へと治療をしてくれと現れます。でもこの後いったい私の治療は誰がしてくれるのでしょう??

 

“シンコミヌートス”

土曜日は、通常であれば一日の診療を終えた後にGymus(ワイマス)まで飛行機で戻りその町で一泊します。ところが日没までどのくらいの時間が残されているかによってはワイマスまで到着不可能な場合があります。その場合、Oblegon(オブレゴン)というワイマスよりも手前の町に土曜の宿を取ります。ワイマスまで行けずにオフレゴンに宿泊をすることになったある回の土曜日のことです。


サンブラスからオブレゴンまで、飛行時間は約2時間です。前述したように、メキシコでは軽飛行機は日没後には飛べない決まりがあるようです。闇にまぎれてマリワナ運搬をする軽飛行機が多いためだと聞いています。もし日没までに着陸できなかった場合は飛行場に罰金を払わなければなりません。この日も、もし向かい風が吹いていたらおそらく罰金を払うことになってもおかしくなかったようですが、何とか日没ぎりぎりに着陸する事ができました。


飛行機を降りるといたるところから例のごとく「カト~~!!」といろいろな人から声がかかります。ドクターKはその一人一人に挨拶(というよりは長~い世間話)をしていきます。エアーポートが閉まると外で待っているタクシーもいっせいに帰ってしまうので、残った3人で急いで町まで乗せてもらうタクシーを捕まえに表に出ると、遠~くのほうから私の顔を見たタクシー会社の親玉が、「カト~??」。私が「スィー(はい)!!カトーッ!!」と言うと。彼が「お~~、シンコミヌートス(五分間という意味)!!!」とまわりの運ちゃんたちに言うと、いっせいに皆が「シンコミヌ~~ト~~ス!!」?????何が起こったのかわからずに私も「シンコミヌ~ト~~ス!!」。もう一人のメンバーのダンになんのこっちゃ?と聞くと、ドクターKは後5分(シンコミヌートス)待ってくれといつもタクシーを1台またしておいては、例のごとく誰かと話し込み、毎回必ず30分以上は待たせてしまうのだそうです。そこでついたあだ名が「シンコミヌートス」。それ以来スペイン語がまだ話せない私の顔は覚えられているようで、毎回このエアーポートに着くといたるところからタクシーの運ちゃんに、「シンコミヌ~ト~ス!」とまるで私の名前のように呼ばれるうになってしまいました。そしてもちろんこの時も運ちゃんを含めて我々はドクターKの長話に30分以上も待たされたのでした。

 

“ストーム“

登場人物        1.パイロットはもちろんドクターK

                    2.ダーティー“ダン”と呼ばれるデンマーク人

                    3.メキシコがわかりつつある私

 ある回のボランティア旅行の帰路のことです。いつものようにプエルトペニャスコで車用ハイオクをポリタンクで給油しカレクシコまで飛びつなぎ、今度はそこで飛行機用ガソリンを満タンに給油したところでドクターKがこう言います。「さて、サンディエゴ方面へ抜けるにはかなり高度を上げないとストームの雲の上を抜けられない。まずは、高度を上げてみて雲の隙間を抜けるか、上を抜けるか考えよう。」飛行場の天気予報をチェックしたようで、この日はかなり大きなストームがサンディエゴ方面に覆いかぶさっていたようです。飛行機に乗り込むとダンが、「サンディエゴまでは1時間30分のフライトだから、みなでコーヒーでも飲みながら行こう。」とエアーポートにあるRose Burger shop (ここのRosy Burgerがボリュームがあって最高にうまい。) のコーヒーを我々に振舞います。

 コーヒーを3人ですすりながら3千,4千フィートと高度をあげていきます。30分もした頃でしょうか、高度計は1万フィートをさしています。ところがそのあとなかなか高度が上がりません。シングルエンジンのセスナ(172)の最高飛行高度は1万2千フィートと言われており、酸素ボンベなしで飛行できる高度が確か1万4千フィートですが、ストームの雲の上を抜けるのにはどうやら1万4千フィート以上高度を上げないと越えられないようなのです。このストームの雲、我々が必死の思いで高度を上げているのをあざ笑うかのようにどんどん大きく上へ上へと膨らんでいきます。ふとGPSを見ると、空中での速度95ノット、対地速度(地面に対してどれだけのスピードで進んでいるか)がなんと15ノット(20マイル)でした。向かい風の強さが、80ノット(きっと100マイルくらい)なのです。これじゃあ竹とんぼだ・・・前にも上にもほとんど進んでいない状態で、少~しずつ少~しずつ高度を上げ、1万4千5百フィートほどになった頃には、雲はさらにこれでもか!と上へ上へと膨らんでいます。ちなみに1万4千5百フィートは、通常補助用酸素が必要な高度です。このあたりから徐々にわたしの視野に変化が出てきました。なんだか周りが暗~くなって来て、気持ちよ~くなって・・・まずい!!酸欠だ!!ドクターKにあわててそれを告げると、「いずれにしても、この雲の上は抜けられない。どこかに隙間はないか??」と皆で四方を見渡すと、ある箇所が雲が薄くなっていて地面が見え隠れしています。ただしそこへ機首を向けるといたずらな風で雲がかぶさり、そしてしばらくすると又地面が見え・・・・と、なんと自然の意地悪なことか!ちなみにドクターKは計器飛行が出来ますので、雲の中も飛べるのですが、レーダーで誘導してもらえる地域ではないのと、山の尾根に四方囲まれているこの地域で、雲(しかも巨大なストーム)の中を飛ぶことは自殺行為。出来るだけ有視界飛行で飛行航路を取らないとなりません。ところで、この頃にはゆうに飛行時間は数時間を越えていて・・・3人ともコーヒーの影響が少しずつ膀胱のあたりに出てきていました。「皆あとどれくらい我慢できる??」というドクターKに、私は「1~2時間」、ダンは「As long as we have a cup for each, we are OK(1人に1つずつコーヒーカップを持ってるから大丈夫)」といいます。といっても私のコーヒーカップにはまだ半分コーヒーが入っており・・そこにするとなると・・ちょっと難しいことになるだろう・・なあ。


 ということで、航路変更、パームスプリングスを回ってリバーサイドあたりの飛行場で一度降りて、そのあとLong Beachに入るプランに変更。「ガソリンはあと2時間ほど持つから十分だろう。」と徐々に高度を下げて東へ雲を避けていきます。ストームの雲が、毎秒ごとにかたちを変え言葉で表現できないような表情を見せます。時には笑っているようにそして時には猛り狂うように・・そんな雲を“美しい”と余裕を持って見ていられるのは、経験豊富なドクターKがパイロットだからです。自分一人で飛行訓練をしているのだったらと思うと背筋が寒くなります。さて、雲を避けるためにかなり高度を下げ、地形に応じてしかも何が起きても不時着できるように、道路を絶えず探しながら東へ東へと飛び、しばらくするとドクターKが「2時の方向を見てごらん。」と注意を促します。そちらに目をやると、竜巻が横向きに巻いているような大きな渦巻きが山の谷間、ちょうど国道の上辺りにこちらを向いて口をあけています。私たちに通れるのものなら通ってみろとばかりに・・「あそこを抜けるとなるとかなりバンピー(揺れがはげしい)だ。あそこを抜けられないとなると、リバーサイドの飛行場に着陸できない。」「このままLong Beachにルートを取って入っていくが、だいじょうぶか!?」とドクターK。「OK Whatever you have to do」とコーヒーカップを握る手に力が入ってしまう私でした。もしコーヒーカップにするとなるとまだ入っているコーヒーが邪魔だし、といってコーヒーを飲み干したら一気に膀胱が膨れるだろうし・・・大きな選択を迫られる前にLong Beachまで着いてほしいと切に願う私でした。リパーサイドから西へしばらく入ってくるともうあたりは暗くなってきています。この辺まで来るとストームもおさまっていて今までの飛行がまるで夢のような感じさえし始めました。それから20分あまり飛びLong Beach 飛行場の明かりが見えてきたころには3人とも全くの無口になっていました。無事着陸をすると、例のごとくドクターKの、「今日もまた無事に新たなメキシコ旅行の幕を閉じることができた。最後にもう一仕事残っているが・・・」という台詞が終るか終らないうちに、内またでトイレに駆け込む3人でした。

パート3に続く

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